五感をひらき、整え、癒される森時間を 山口市「森林セラピー山口」
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日々のストレスや疲れがたまったとき、「森に行きたい」と思うことはありませんか?森林セラピーとは、自然の力を活用する“心と体の健康づくり”です。
木々が発するフィトンチッドや、森の静けさ、光や風のゆらぎといった自然の刺激が、自律神経のバランスを整え、免疫力を高め、ストレスを軽減することが、森林浴効果の研究でも科学的に証明されています。
まさに、「森が効く」。
そんな実感を得られる場所が、山口県にもあります。
山口市徳地の森林セラピー基地
山口市徳地には2006年に全国で最初に認定された「森林セラピー基地」の森があります。
広さは約3700ヘクタールと東京ドーム約790個分。
広大な森には6つの趣の異なるエリアがあり、それぞれの自然や歴史を楽しめるガイドツアーが用意されています。
徳地の森は、東大寺を支えた森
この徳地の森には、古くからの歴史が刻まれています。
約800年前、東大寺大仏殿の再建に際して、ここから伐り出された巨木が使われたと伝わる由緒ある森です。
また、毛利藩の「御立山(おたてやま)」として藩有林に指定され、保護・管理されてきました。
その伝統は、現代の国有林「滑山(なめらやま)」へと受け継がれ、森は今も豊かな命を育んでいます。
いざ、三本杉ツアーへ
今回は、7月5日に開催された「森の巨人たち百選 三本杉ツアー」に参加してきました。
参加者は定員いっぱいの約20名。大人気で、早々に枠が埋まってしまったそうです。
ツアーをナビゲートしてくれたのは、「森の案内人」と呼ばれる認定ガイドのみなさん。
ここでは、訪れる人が安全に、そして深く森と向き合えるよう、研修・認定制度を設けており、現在およそ110人のガイドが登録されています。
「森の案内人」は単なる「説明係」ではありません。
自然や歴史の知識はもちろん、参加者の様子を細やかに見守りながら、森で過ごす時間が“その人にとっての“癒し”になるようにサポートしてくれる存在です。
森へ、一歩ずつ。
案内人の皆さんの笑顔に送り出され、いよいよ森の中へ。
滑川(なめらがわ)に沿って、せせらぎを聞きながら往復6キロ程の林道を4時間半程かけて、ゆっくり歩いていきます。
アップダウンが少なく、体力に不安がある方や、お子さん連れでも安心して参加できるコースです。
朝から気温の高い日でしたが、森に入ると雰囲気ががらりと変わります。
木々の葉が陽を和らげ、風が通り抜けるたびに汗が引いていくような心地よさがありました。
道すがら、ガイドさんが「ちょっと、かじってみてください」と差し出してくれたのは、竹の先の芽。
「食べていいの?」「どんな味なんだろう…?」と、遠慮がちに一口。すると…。
「なんか不思議!」「初めての味だけど、森って感じ」
言葉にはうまくできなくても、“森の中でなにかを体験した”という実感が、表情ににじんでいました。
木の葉や枝には、それぞれに個性があります。
実際に指先で触れたり、鼻を近づけたりすると、ミズメの湿布のような香りや、クロモジの上品で甘やかな香りが広がり、「うわ〜、これ好きかも」「なんか懐かしい!」と声があがります。
様々な記憶が呼び起こされ、森との距離がぐっと縮まっていく瞬間です。
子供たちに人気だったのはサルトリイバラの葉を叩いて音を出す草遊び。
そう、森の中では、目についたものを拾い、触れ、試してみる―すべてが遊び道具になるんです。
「この野イチゴは食べられる?」「この葉っぱ、不思議なカタチだね」
好奇心のアンテナが、森の中でどんどん広がっていく。木漏れ日の下、小さな冒険が続いていました。
森からの贈り物
休憩タイムにふるまわれたのは案内人さん手づくりのクロモジのお茶。
クロモジの枝から丁寧に煮出したお茶は、すっきりとした香りと鮮やかな色合いで、まさに「森からの贈りもの」。
喉を潤したあとは、木漏れ日の下で立ち上がってストレッチ。両手をぐーんと伸ばして、大きく深呼吸すると、森の空気が体いっぱいに広がっていくのがわかります。
森にいることで、眠っていた感覚が目を覚ましていくようです。
森林浴のちから
森の中で過ごしていると、ふと気づく「癒されている」感覚。それは、ただの気のせいではありません。
森林浴には、科学的に裏づけられたさまざまな健康効果があることがわかっています。
・自律神経のバランスが整う
・免疫力が向上する
・ストレスが軽減する
これらの効果は、植物が発する香り成分・フィトンチッドや、森に満ちる音・光・匂いといった自然の刺激が、私たちの五感をやさしく包み、体と心に働きかけることで生まれます。
まさに、「森が効く」という言葉がぴったり。
目を閉じて深呼吸するだけで、心がすっと軽くなる。そんな確かな実感に満ちた時間が、そこにはありました。
クライマックスは、森の巨人と向き合うひととき
約3キロ歩いてたどり着いた折り返し地点。
私たちを待っていたのは、森の奥深くにそびえる「三本杉」との出会いでした。
樹齢はおよそ300年。まっすぐ空を突き上げるように立つ、高さ46メートル、幹まわりは5メートルにもなる大樹が、3本肩を寄せ合うようにして佇んでいます。
次世代に残すべき代表的な巨木「森の巨人たち百選」にも選ばれています。
その姿は、まるで毛利元就の「三本の矢」の教えのように、寄り添い、支え合い、ひとつの力となって森を守ってきたようにも感じられました。
そっと幹に手を添え、抱きしめるように身をあずけてみます。
目を閉じて、深く、静かに、木の息づかいをただ感じる時間。それは、森の深さと、人の小ささを学ぶ静かなひと時となるでしょう。
森で食べるごはんは最高
三本杉との出会いのあとは近くで昼食タイム。
大きな木々に囲まれながら、木漏れ日がゆれる森の中でいただくお弁当は、いつものごはんが不思議と何倍もおいしく感じられます。
手づくりのおにぎりやカップラーメン、地元のお弁当など、持参したごはんを囲んで、 自然と会話がはずみ、笑顔が広がります。
食事を彩る鳥の声、木漏れ日、土の香り、風の音と川のせせらぎ。どれもが、ごちそうの一部になっていました。
森でほどけていく、自分のこころ
昼食後は、再びゆっくりと森を歩きながら、スタート地点へと戻ります。
ツアーのはじまりとは違い、参加者のみなさんの表情はどこか柔らかく、軽やかに見えました。
「暑かったけど、なんだかすっきりしました」
「森からパワーをもらった気がします」
「心地よくて、ストレスがふっと抜けた感じ」
そんな声が自然と口をついて出るのは、体の疲れとは別に、心がそっと整っていた証なのかもしれません。
案内してくださった「森の案内人」の方々も、にこやかに語ってくれました。
「私たち自身も、森に入ると元気になります。」
「参加者のみなさんの表情がだんだんほぐれていくのを見るのが、なにより嬉しいんです」
人が森に癒され、森が人にやさしさを返す。そんな関係が、ゆっくりと丁寧に育まれている徳地の森。
この場所で得た感覚は、きっと、日常のなかでもそっと背中を押してくれるはずです。
次はあなたも、森に癒されてみませんか?
森林セラピー山口では、希望の日時で催行可能なガイドツアーを随時受付中です(2週間前までの予約が必要)。
また、沢登りやツリークライミングの体験、森の美腸講座など四季折々の魅力を感じられるイベントも予定されています。
都会の喧騒や慌ただしい毎日に疲れたとき、ぜひ一度、森に足を運んでみてください。
静かな森の空気が、あなたの心にそっと寄り添い、深い癒しと元気を届けてくれるはずです。