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商店街でふらり、アートに出会う春 山口市「HEART SPOT 102」

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2007年に始まった、山口県総合芸術文化祭「HEART」。今年も山口のまちなかを舞台に、アートの風景が広がっています。会場は美術館の中だけではなく、商店街やギャラリーなど日常の延長線上に作品が点在。買い物の合間や散歩の途中でも、ふらりと立ち寄れる“開かれたアート・プロジェクト”として親しまれてきました。

【写真はこちら】「HEART SPOT 102」の様子をチェック

 

歩きながら出会う、4つのかたち

HEARTは4つのセクションで構成されています。

「展」では、山口県立美術館で開催される美術展覧会。
「商」は、作品の展示・販売などが楽しめるアート・マート。
「遊」は、美術館と中心商店街を結ぶ一の坂川エリアなどを舞台にしたアート・ルート。
「森」は、県美の森を舞台にしたアート・フォレスト。

それぞれがゆるやかにつながりながら、山口のまちをアートで彩っています。

 

商店街のなかの、小さな宇宙

今回足を運んだのは、「遊」の拠点のひとつ、HEART SPOT 102で開催中の「田中米吉×ハセガワタカシ展―穴と視覚の自由/Dockingからの出発」。

商店街の一角に現れる展示空間は、ガラス越しに作品がのぞき、通りすがりの人の視線を自然と引き寄せます。

ハセガワタカシさんは、彫刻家・田中米吉氏(1925-2021)のもとで、26年間アシスタントとして制作に携わってきました。田中氏の没後、初めて実現した二人の“共演”。時間を越えた対話が、この空間で静かに交わされているようです。

まず目に飛び込んでくるのは、田中氏の晩年の代表作「Universality 自己・非自己 No998-2015」(2015)シリーズ。

  • 田中米吉「Universality  自己・非自己 No998-2015」(2015)

穴の開けられたステンレス製の四角柱が規則正しく並び、磨き上げられた金属面には周囲の景色が映り込みます。光や人の動きによって表情を変えていく様子は、無機質なはずの素材が空間ごと呼吸しているようにも見え、どこか宇宙的な広がりを感じさせます。

一方、ハセガワさんの新作「Undocking ― 曖昧な記憶」(15点/2026)は、正方形の和紙キャンバスに描かれた楕円が印象的です。

  • (壁面)ハセガワタカシ「Undockingー曖昧な記憶 15点」(2026)

ハセガワさんはSNSでも、無機質な物体に隠れる有機質な存在、生前にはあり得なかった二人の展示が没後だからこそ生まれた視点で新たな可能性を引き出している、という言葉を綴っています。作品は作者の手を離れ、展示というかたちで再び動き出す。そのプロセス自体が、未来へと受け渡されていく時間なのかもしれません。

 

朽ちていくことも、作品の一部

会場には、ハセガワさんの「Futaba ― 記憶の輪郭」(2008-2014)も並びます。

  • ハセガワタカシ「Futabaー記憶の輪郭」(2008-2014)

ワイヤーでかたどられた双葉は一見愛らしいのですが、素材は建築現場で不要になった針金やセメント。制作後は庭など屋外に設置し、あえて朽ちさせることで時間の経過を可視化するのだそうです。風雨にさらされ、変化し、やがて崩れていく姿もまた作品の一部。
野外彫刻は50年後どうあるべきか、その問いは、作品を残す責任についても考えさせます。

無機的な素材から生まれた双葉という有機的モチーフ。その対比は、田中氏の金属作品とのあいだに静かな緊張感を生み出します。対照的でありながら、どこかで呼応し合う二人の表現。その関係性こそが、本展の見どころのひとつではないでしょうか。

 

世界に一羽だけの蝶が舞う

会期中には、小学生を対象にしたワークショップ「世界に1羽だけの蝶」も開催されました。無地の蝶に思い思いの色を重ね、完成した作品は会場の壁面へ。双葉にとまる蝶、ステンレスの柱に映り込む蝶。子どもたちの色彩が、展示空間に新たなレイヤーを加えていきます。

2026年2月28日のワークショップの様子。(ハゼガワさん提供)

 

ほんの一歩、のぞいてみませんか

「アートはコミュニケーションツールなんです」とハセガワさん。目の前に作品があることで会話が生まれ、人と人とがつながる。「HEART SPOT 102」が商店街のなかにあるのも、そのためなのだといいます。

日常の延長で出会うアートは、決して特別なものだけではありません。心を少しだけ柔らかくし、新しい視点を差し出してくれる存在でもあるはずです。

堅苦しく考えなくて大丈夫。通りすがりに、ほんの一歩。そこから始まる出会いが、きっとあります。

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