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「◯◯の秋」を本で楽しむ 独立系書店員が選ぶ3冊

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長かった暑い季節もようやく終わり、日中も過ごしやすい季節となりました。
秋はスポーツの秋、食欲の秋、芸術の秋などと、なにかに打ち込んで夢中になるのにぴったりな季節と言われていますが、その中でもやはり忘れてはいけないのが「読書の秋」。

今回「山口さん」では、「読書の秋」を楽しもう!ということで、今年県内の南と北に同時期に誕生した2つの独立系書店、宇部市「工夫舎」と萩市「かむかふBOOKS」に、それぞれ「◯◯の秋」をテーマに、おすすめの本をピックアップして、その魅力を寄稿していただきました。

宇部市「工夫舎」

まずは、今年4月に宇部市に誕生した「工夫舎」のオーナー・根来正樹さんです。

元々美容室だった建物を改装してできた店内では文学やエッセイ、実用、デザイン、絵本など1,000冊以上の本が販売されています。

小説・政治など、ジャンルでの区分けではなく、ある言葉の書かれた短冊があり、その言葉に結びけられた内容の本を根来さんの独自の感性で選んで並べているのが「工夫舎」の特徴です。

「”優しい違和感”を大切に」と話す根来さんの語り口調はとても穏やか。居心地の良い空間についつい長居したくなる書店です。

そんな根来さんに今回のテーマを選んでいただくと「本音の秋」。「秋は、外の世界が静かに変わっていく中で、心の内側にも目を向けたくなる季節。冷たさが移ろう風や、植物の色の変わり目に、心を揺らす本に出会えればと思い、本音を題材に本を選ばせていただきました。」とのことです。

「本音の秋」の3冊

①『わかりあえないことから-コミュニケーション能力とは何か』(平田オリザ著)講談社現代新書

「コミュニケーション」というテーマを多角的に捉え、人と人との間にある「わかりあえなさ」を前提に、いかに他者との関係を築くかを考察した一冊です。

この本では、演劇的手法や具体的なエピソードを通じて、会話における多様性や誤解、ズレの面白さが語られています。平田さんは、コミュニケーションを「能力」ではなく「感受性」の問題として捉え直すことを提案し、他者との対話の中で自分を見つめ直すきっかけを提供しています。

秋は自然が変化し、気温が冷え込むことで内省の時間が増える季節です。落ち葉が風に舞うように、私たちも日々変化し、時には孤独や雑念を感じる瞬間があります。この本は、その「わかりあえない」感覚を豊かさとして捉え、秋の静かな時間にじっくりと考えさせてくれる良い機会をくれます。

秋の夕暮れ時、温かい飲み物を片手に、心静かに「わかりあえない」ことの意味を感じ取りつつ読むと、思索が一層深まるかもしれません。

 

②『月のうた』(左右社編集部・編)左右社

月のうたは、月をテーマにした短歌・詩集です。

古今東西、さまざまな詩人や歌人たちが詠んだ「月」にまつわる作品を集めたこの本は、静かで神秘的な存在である月が、時代や文化を超えていかに人々の心を捉え、詩的なインスピレーションを与え続けてきたかを感じさせてくれます。

月は、夜の静寂の中で孤独や思索を誘い、時には遠く離れた誰かとの繋がりを象徴する存在です。本書はその象徴性を、繊細な言葉とともに読み解く一冊です。

秋は夜が長くなり、月を眺める時間が増える季節です。冷たく澄んだ空に浮かぶ月を見上げながら、自然と自分の内側に潜む感情や本音に気づく瞬間が訪れるかもしれません。

『月のうた』は、そんな秋の夜にふさわしく、月を通じて心の奥にある本音や孤独感、つながりへの渇望を優しく掘り起こしてくれます。この詩集を読むことで、秋の静かな時間を一層深く味わい、自分の心と対話するひとときを持てるのではと思っています。

 

③『明けても暮れても食べて食べて』(はらぺこめがね著)筑摩書房

根っからの食いしん坊なおふたりの作家さんが、食べることにまつわる日常のエピソードを温かく綴ったエッセイ集です。

絵本作家ならではの視点で、食べ物を彩る情景や感情を、まるで絵本のように豊かなイメージで描き出します。日々の食卓で繰り広げられる小さな喜びや発見、時には食べることへの葛藤や驚きをならではの感覚で伝え、ページをめくるたびに、食べることの楽しさを覚えます。食事は単なる生きるための行為ではなく、人生を味わい、感性を育む大切な瞬間であることを、筆者の柔らかな語り口が優しく教えてくれる良い本です。

秋は食べ物が豊かに実る季節であり、自然と「食」に対する関心が高まります。また、筆者の絵本作家としての繊細な視点が、食事を単なる日常の一コマから、心の奥深くにある本音や欲望と向き合う場面に昇華させています。秋の深まりとともに自分の本当の「食べたいもの」、そして食を通じて本音に気づく時間を楽しむことができるような気がします。

 

【工夫舎】

住所   山口県宇部市寿町2-6-13
営業時間 水木金14:00~21:00 / 土日11:00~18:00
店休日  月・火

↓「工夫舎」について詳しくはこちら

優しくつながる本のセレクトショップ 宇部市「工夫舎」

萩市「かむかふBOOKS」

続いては、今年6月に萩市・浜崎町に誕生した「本と美容室」の中にある「かむかふBOOKS」。同店を運営するアタシ社の書店・出版事業責任者の瀬木広哉さんは、選書も担当しています。

美容室と併設するように作られている「かむかふBOOKS」は、「小さな総合書店」をコンセプトに、文学や実用、人文、絵本から雑誌まで、2,000冊ほどをラインナップしています。

「かむかふ」とは「考える」の古い言い方で、その言葉通り、「考える・学びのきっかけとなるような本」をテーマに選書。

瀬木さんは、いつも優しい眼差しと口調で、本を愛で、その魅力について話してくれます。

そんな瀬木さんには、日が暮れるのが早くなってきた「秋の夜長」にチャレンジしたい、読み応え十分の長編小説を3つご紹介していただきましたよ。

 

「秋の夜長」を楽しむ3冊

①『デイヴィッド・コパフィールド』全4巻(チャールズ・ディケンズ著、中野好夫訳)新潮文庫

大学時代、ある教授が講義の合間にしてくれる本の話が好きでした。

イギリス留学中、壁にぶつかり悩んでいた頃、テムズ川のほとりで夢中になって読んだ……そんな青春の香りたっぷりエピソードとともに教授が紹介してくれたのが本作。

19世紀イギリスのベストセラー作家ディケンズの、自伝的要素も多く盛り込まれた長編です。孤独な出自のデイヴィッドは母親を不幸なかたちで失うも、多くの人々と出会い、時に恋に落ちながら、幾多の苦難を乗り越え、作家としての人生を形づくっていきます。

この作品が素敵なのは、生き馬の目を抜くような社会にも、優しさや思いやりは確かに存在していて、それらが夜空の星のようにキラキラと輝く瞬間をしっかり切り取るところ。

社会の暗部を抉ったり、人間のグロテスクな欲望を突き付けたりする小説もいいですが、こうやって愛情深く読み手をエンパワメントしてくれる作品にも惹かれます。

 

②『細雪 全』(谷崎潤一郎著)中公文庫

文豪・谷崎の代表作の一つ。吉永小百合さんら名優が揃い踏みした、市川崑監督の映画も有名です。いつか読もうと思いながら、分厚さに気圧されて手を付けられずにきた人も多いのではないでしょうか。

舞台は昭和初期の兵庫県芦屋市。この地の分家に暮らす幸子、雪子、妙子の姉妹らを中心に、大阪・船場の商家「薪岡家」の人間模様が鮮やかな筆致で描かれていきます。

多くの紙幅が割かれるのは、当時の関西の上流家庭の暮らしと風俗。物語を楽しむというより、そこにある生活の中に浸ると表現した方がしっくりくる読書体験です。

こう書くと、なんだか退屈な作品だと思われそうですが、読み始めると意外なほどに引き込まれます。ある時代のある文化圏の中で、たまたま自分の元に巡ってきた宿命を引き受け、生きていく。それだけのことが、いかにドラマチックであるか。

自分も今ここにある生活をしっかりと味わおう。そんな気持ちにさせてくれる一冊です。

 

③『アラビアの夜の種族』全3巻(古川日出男著)角川文庫

近年ではアニメ『平家物語』『犬王』の原作者としても有名な作家、古川日出男さんの初期の代表作。偶然手に取った稀書を著者が訳したという体裁をとった、なんとも妖しい作品です。

舞台は200年ほど前のエジプト。迫りくるナポレオン艦隊の脅威に対抗する秘策として、読む者を破滅に導く「厄災の書」づくりが進められます。謎めいた女性が夜な夜な語るのは、魔術が飛び交う神話的な年代記。荒唐無稽なはずの物語世界に読み手をぐいぐいと引っ張り込んでいくストーリーテリングは圧巻の一言です。

物語とは、いわば嘘。しかし、嘘の中にこそ浮かび上がる世界の真実があって、それに触れたくて人は物語を読むのかもしれません。その意味で本作は、圧倒的な筆力に支えられた一級の大嘘です。

調べてみると、本作の第1巻はネット書店などでもかなり品薄の様子。ぜひとも新装版を刊行してほしい!という願いも込めて、ここで大プッシュしておきます。

 

【かむかふBOOKS】

住所   山口県萩市浜崎町16番地 「本と美容室 萩店」内
営業時間 10:00~18:00
店休日  不定休(Instagramでお知らせ)

↓「かむかふBOOKS」について詳しくはこちら

伝統的な街並みに新たな文化拠点が誕生! 萩市「本と美容室 萩店」

 

いかがでしたか?

評論や短歌、絵本型エッセイなど様々なジャンルで自分と向き合ってみるもよし。

クラシックな名作・物語に時間を忘れて没頭してみるもよし。

1年の中でも最も過ごしやすいこの季節をあなたなりに楽しんでみてくださいね!

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